2017年7月20日木曜日

「新留学生リレー日記」最終回 学位留学を考えているあなたに



今回のリレー日記では、UC Davisの村瀬さんにアメリカの、Oxford大学の江口さんにイギリスの、Tübingen大学の川口さんにドイツの高等教育の学位制度、学費、入学制度について16回にわたりご紹介していただきました。実際にインタビューを受けていただいたのは、3か国に留学中の方だけでしたが、カガクシャネットで独自に北アメリカ、ヨーロッパに加え、東アジア、南アジアの10カ国・地域の留学制度についてアンケートを行った結果、理系の大学院留学では、博士の学位制度、研究室又は政府による奨学金、入学時期などについてある程度共通している部分があることが分かりました。


多くの国において、日本における修士の学位、博士の学位に相当する学位がありますが、博士課程が比較的画一的である一方、修士課程については多様な制度があることが特徴的でした。博士課程(修士号相当取得後)の期間は、個人の能力や研究室の事情によってある程度変動しますが、世界的にみて3-4年程度が目安です。その反面、修士課程は国によって制度が大きく異なり、アメリカやイギリス、香港には日本より短期間のうちに修士の学位が取得できるコースが存在します。講義のみ・学位論文なしで早ければ1年ほどで修了できますので、将来的に企業就職を考えている方には向いているかもしれません。ただし、博士課程への進学を考えている場合やアカデミアへの就職を希望する場合、こうした短期コースでの学位は学位論文を有する学位と同等に扱われない可能性があるので、注意が必要です。

学費に関しては、アメリカ・イギリスでは非常に高額に設定されている一方、ヨーロッパ大陸側では、ほぼ不要の国も多く見られます。とはいえ、理系の博士課程の場合、多くの国で奨学金や研究室からの給料という形で学費や生活費の全面的な支援を受けられる制度があるので、こうした制度を活用すれば、自己負担は国に依らず、ほぼ不要なようです。また、生活費に関しても、海外では一般的なフラットシェアなどの工夫次第で大きく下げることができます。その一方、保険や医療費、年金等や授業料以外の学校の諸経費等が予想外に高額な場合がありますので、留意する必要があります。

留学の際のハードルの一つとして、日本と欧米では入学時期が異なるということが挙げられますが、イギリス・ドイツ等のヨーロッパの国々の博士課程に関しては、明確な入学時期が決まっていないため、ポジションが見つかれば、日本の修士課程修了直後からの留学の可能性も考えられます。欧米圏のみならず多くの大学で、エッセーやstatement of purpose, GPA が合否を決める重要な資料になるので、学部時代から意識して勉強し、専門分野に関する知識を身につけ、英語で考えを伝える能力を身につけておくことが大切です。また、GRE は、主に北米の大学院に入学する際に必要ですが、ヨーロッパやその他の地域でも、入学に際して、GRE相当の試験を受ける、またはGREの結果を参考資料として提出できる場合がありますので、受けておくにこしたことはないといえます。

これら世界の学位制度に関して、日本学生支援機構(JASSO)のページや、欧州委員会のページに体系的な情報が記載されていますので、参考にしてください。

繰り返しになりますが、大学院留学に関しては、同じ国であったとしても大学や学科、さらには研究室の運営方針によって、制度や待遇が大きく異なるのが実情です。そのため、一般的な情報を鵜吞みにせずに、自分自身で出願先の大学や教授と直接連絡し、気になる項目をひとつずつ確認することをお勧めします。こうした情報収集活動は日本国内で進学する場合に比べてとても大変ですが、自立して計画を立てて遂行していく、という重要な能力を身につけるチャンスです。この能力は留学中のみならず、留学後にもとても役に立ちます。

学位留学をすると典型的な日本人のキャリアからは離れてしまいますが、世界の異なった価値観をもつ多くの人との交流やネットワークの拡大を通して、視野が広がり、今後の人生がより豊かなものになります。留学を将来考えておられる方、まさにこれからしようとされている方、留学への道は、初めは勇気のいる一歩かもしれませんが、小さくも力強いあなたの一歩を期待しています。

最後に、大変お忙しい中、新留学生リレー日記の連載にご協力いただいた村瀬さん、江口さん、川口さんにこの場を借りてお礼を申し上げます。

参考リンク

最終回 おわり

新留学生リレー日記
第1回Oxford & UC Davis & Tübingen
第2回英米独の学位制度
第3回アメリカの大学院
第4回ドイツの大学院
第5回イギリスの大学院
第6回Q&A
第7回留学生の懐事情
第8回オックスフォード生活とお金
第9回ドイツ留学で気になるArbeitsvertragとStipend
第10回アメリカ留学のお財布事情
第11回Q&A(ファイナンス面)
第12回応募と入学について
第13回オックスフォード大学への出願
第14回ドイツ大学院へ出願:高校は出てますか?
第15回米国大学院への出願
第16回Q&A(出願面)
第17回 まとめ 

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執筆者プロフィール

江口 晃浩(えぐち あきひろ)
高専時代にAFSを通じてオレゴン州の高校で一年間の交換留学を経験。2008年より米国アーカンソー大学に進学し、2011年春に理学士(コンピュータ・ サイエンス)、2012年に教養学士(心理学)を取得。同年、英国オックスフォード大学大学院に進学し、計算神経科学の博士号過程に在籍中。ブログ「オックスフォードな日々http://hogsford.com
村瀬 彩華 (むらせ あやか)
カリフォルニア大学デービス校 食品科学科の修士1年生 学部卒業後に渡米
専攻は食品微生物学
川口 雄久(かわぐち かつひさ)
チュービンゲン大学 マックスプランク神経行動科学大学院のD2
学部卒業後に渡独 研究内容は視覚情報処理と意思決定
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発行責任者: 武田 祐史
編集責任者: 日置 壮一郎
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