2015年7月26日日曜日

企業で求められる力と留学 第3回:チャレンジ精神

連載「企業で求められる力と留学」の第3回(最終回)です。第1回第2回では実務上の力について考えてきましたが、最終回の今回は仕事に向き合う姿勢やキャリア形成に大きな役割を果たす、チャレンジ精神について掘り下げていきます。



企業で求められる能力として、私の経験を基に、第1回目はコミュニケーション能力、第2回目は柔軟な対応能力について紹介しました。第3回目は、物事を前向きに捉え行動するというチャンレンジ精神の大切さについて紹介したいと思います。留学中の皆さんにとっては、日本を離れ、現地で生活をする事が既に大きなチャレンジだと思います。留学準備中の皆さんにとっては、今までの仕事や日本での生活を離れ、留学を決断したことがそれにあたると思います。そのほか、就職、転職、子育て、そして身の回りの小さな事も、それらは新しいことへの挑戦だと思います。もちろん、企業で働く上でも、チャレンジ精神は非常に大切であり、重要視される能力の一つです。そしてそれは、個人としてのみならず、企業としても非常に大切です。私が今までの社会人経験で、物事を前向きに捉え行動することの重要性を感じた3つの具体例を紹介したいと思います。(本文は、個人の経験に基づくもので、全ての場合または業種に該当しない可能性もあります。)
  1. 与えられた困難な状況下でのチャレンジ精神
  2. 成長のために積極的に機会を取りに行くチャレンジ精神
  3. 巡ってきた機会を最大限に活かすチャレンジ精神

1.与えられた困難な状況下でのチャレンジ精神 

ある日突然、私は自社で開発しているある製品の試験工程の担当を任されました。それまでは、同じグループの他の人が担当していましたが、諸事情により、急遽担当が変更になり、私が製品の試験を取りまとめることになりました。具体的には、設計部門からの要求を満たす生産工程の構築、生産に必要な試験設備の準備、そして、試験時における現場部門への作業指示や試験の取りまとめです。試験準備に必要な事や、試験時に発生するトラブルや質問が全て私のところに上がってくるという状況です。それを、設計部門と相談・調整し、お客様の要求や納期に間に合うよう、試験を進めていかなければなりません。

内示を受けたのが、開発試験が始まる1ヶ月ほど前。試験の直前ということもあり、我々の部門から発行が必要な書類は既に作成済みかと思いましたが、1部も作成されていない状況でした。当時、私は試験をする製品を見たこともなく、試験準備の作業内容も想像がつかなかったので、上司に依頼し出張し、製品を見せてもらうことになりました。この時点で、完全にマイナスからのスタートでした。しかしながら、お客様への納期は決まっており、そこから逆算し、試験の日程も決まっていました。開始日が決まっているので、「やるしかない」という状況でした。そこから、上司、先輩、後輩などの力を借りて、書類作成に臨みました。崖っぷちの状態から、チーム全体で何とかしようという意気込みで、休日の出勤や、夜遅くまで書類作成に臨み、無事に必要書類を発行し、試験準備や試験立会に臨みました。私にとって、試験の取りまとめというのは初めての経験でした。

作業のマニュアルはありますが、試験の遂行や、関係するトラブル対応等、私の判断や発言が関係者の作業に直接影響するという役割だったため、非常にプレッシャーがかかりました。試験期間中は、現場に誰よりも早く行き、最後に現場を去るという日々が続きました。その日に発生したトラブルは、翌日の朝までに解決するかトラブルシュートの方針を決めなければなりません。そうしないと、次の日の試験が止まってしまい、納期までに時間だけが失われてしまうのです。

試験取りまとめという非常にプレッシャーのかかる役割を初めて担当し、会社に行くのが憂鬱に感じたこともありましたが、今振り返ってみると担当させてもらえて良かったと思います。そして、目の前にある困難な状況の仕事に対して前向きに取り組むことの重要性を非常に強く感じました。自分が未経験の事や明らかに大変そうな仕事に対し、積極的に挑戦していくのです。強いチャレンジ精神を持ち、挑戦し続けることで、自分の経験値はもちろん、専門知識やリーダーシップ力も身につきます。そして何よりも、自分の自信にもつながります。今後同じような場面に直面した時も、物事を前向きに捉え行動することで、なんとか達成出来るでしょう。当時は日々の試験を何とか進めることで精一杯でしたが、試験終了後には、その苦労以上の充実感や達成感を得られました。


2.成長のために積極的に機会を取りに行くチャレンジ精神

初めの経験談では、与えられた環境下で強いチャレンジ精神を持ち、業務に臨むことの大切さについて紹介しましたが、ここでは、自分の成長のために、積極的に行動することの大切さについて紹介します。私は現在の部署に移動した3週間後、製品の開発試験を実施するために、海外へ出張になりました。上司から、「こういう仕事があるんだけど、行きたい?」と質問を受け、「はい、行きたいです!」と一つ返事をしたはいいものの、当時はどのような仕事をするのか詳細は全く把握していませんでした。しかし、その出張は、海外の同業他社がどのような試験設備を備えており、どのような環境で試験を行っているのかを身をもって経験できる絶好のチャンスでした。 

私は、移動する前の数年間、日本の生産現場で製品試験の担当をしていたので、試験に対する基礎知識はありました。日本で試験に携わる仕事をしていた時から、同業他社はどのように試験を行っているのだろうか?我々が苦労している問題などを抱えているのだろうか?など他社の状況が常々気になっていました。せっかく掴んだチャンスをここで逃してはいけない!とばかりに、業務を並行しながら、入念に出張準備を行い、出張に臨みました。 


現地入りし、試験準備の仕事にとりかかりましたが、最初のうちは、パートナー会社からの質問に対し、日本側にどのように展開すればよいのか、どこまでが私たちの会社の責任範囲なのかなど、業務の流れを把握するのに苦労しました。それらと並行し試験準備を進めるために、パートナー会社との打合せや、日本との調整、そして、パートナー会社に依頼する作業の整理などを進めました。初めての経験ということもあり、調整に戸惑うことが多々ありましたが、現地にいた同僚のサポートや上司からのアドバイスも有り、なんとか役割を果たせました。製品試験の準備や立会の過程で多くの発見があり、感心させられるところが多々ありました。パートナー会社と比較し、我々の優れている箇所や劣っている箇所も把握できました。また、試験の進め方や環境も肌で感じることができ、非常に良い経験になりました。 

この出張で良い結果を残せたことで、帰国1ヶ月後には別の出張に抜擢されました。2回目の出張では、最初の出張では経験できなかったことも経験でき、さらに実りの多い出張になりました。これも、移動直後に、機会を与えられるのを待つのではなく、失敗を恐れず自ら機会を取りにいった結果です。少し難しいことでも”やります!”と積極的にチャレンジすることで、その機会で得れるものに加え、次の機会や自分にとっての新たな発見など、その機会以上のものを得られるでしょう。そして、前向きな行動を継続することで、さらに大きなものにチャレンジ出来るようになるでしょう。

3.巡ってきた機会を最大限に活かすチャレンジ精神

最後に紹介するのは、与えられた機会を十分に生かすことです。入社数年後、生産工程の改善をするための、新たなプロジェクトが立ち上がりました。その時、上司に呼ばれ「数ヶ月後から、こういうプロジェクトを立ち上げるので、是非入ってもらい、◯◯の担当をしてもらいたいのだけど、どう?」という誘いを受けました。 当時、数年間の実務経験があり、仕事や製品の流れは把握していましたが、そのプロジェクトでは現場を動かすという任務がありました。その中の重点目標は、現場からの質問が全て私のところに上がってきて、現場に早く適格な指示を出し、製品を効率よく流すということでした。必要に応じ、事務所で執務している技術スタッフに連絡調整することもありました。しかし、私より経験が豊富で製品に熟知している現場の方に、適切な指示を迅速に出すことは簡単なことではありませんでした。私が迅速な判断をしかねたため、製品の流れが遅れてしまうということもありました。また、現場の方とコミュニケーションを良くとり、仕事に取り組まなければ、私の依頼を聞いてもらえないので、コミュニケーションには非常に気を遣いました。

現場の改善案を聞いたり、自分で現場に入り体感したり、生産性を向上するための機器を導入したり、担当の役割を何とかこなそうと必死にやっていました。初めの頃は、自分で全てをこなさなければならないという思いが強かったですが、自分一人でできることは限られ、なかなか前進しませんでした。上司とも進捗状況について報告・相談し、このままでは当初の目標値をクリアできないと感じたこともありました。そんな時に頼りになったのが現場の方でした。相談すると親身になって相談にのってくれ、一緒に改善方法を検討してくれました。その他にも、製品の状況や起こりうる特徴などを丁寧に教えてもらいました。

現場の方の助けもあり、その後は今まで以上に周りの人に協力してもらいながら、改善を進める事が出来ました。新規プロジェクトが立ち上がり、そのメンバーとして参加した事で、新規機器の導入やプロジェクトの動かし方など、今までの業務では経験出来なかった様々な事が経験できました。そして、プロジェクト開始6ヶ月ほどで効果が見える工程も出てきました。これも自分にチャンスが巡ってきた時に、失敗を恐れず受け入れる事が出来たからだを思います。前向きにチャレンジすることで、今まで経験できなかったことが、新たな機会として目の前に現れるでしょう。


今回紹介した例は、私が社会人として経験した仕事のごく一部です。これらの他にも様々な仕事があります。中には、モチベーションが他の仕事に比べ上がらない仕事もあります。しかし、どの仕事も前向きに捉え、自分なりに改善することや、その仕事におけるお客様を定義し、そのお客様のためにしっかりとした仕事をしようと思うと、つまらない仕事にも面白みが出てきます。自分がやりたい仕事を担当できるのは、ほんの数パーセントだと思います。その数パーセントの仕事を任せてもらえるようになるためには、まずは与えられた仕事に全力で臨み、実績や信頼を積み重ねる事が大切だと思います。一見難しそうな仕事でも、失敗を恐れず、どんどんチャレンジすることが大切です。成功した時は何事にも代えがたい達成感を味わえ、仮に失敗した時でも、その過程で学んだことや経験したことは次へのステップになります。

留学中は、私生活や授業・研究で思い通りに行かないことや、追い詰められることがあるかと思います。そんな時にこそ、物事に前向きに挑戦することが大切です。現在、留学を目指している方は、留学が大きなチャレンジになることでしょう。留学という素晴らしい機会を活かし、様々なものに挑戦してみてはいかがでしょうか?自分の考え方や価値観が変わり、一回りも二回りも大きく成長することでしょう。また、これは仕事以外のことにも当てはまります。チャレンジ精神を持つということは、仕事のみならず、今後の人生においても非常に大切な役割を果たします。一度きりの人生、挑戦し続けて、悔いのない人生を送りましょう!


連載:「企業で求められる力と留学」

第1回コミュニケーション能力
第2回柔軟な対応能力
第3回チャレンジ精神


著者略歴:

 高橋大介 (たかはしだいすけ)

 2002年3月に高校卒業後、渡米。米州立アラバマ大学(University of Alabama,
 Tuscaloosa) 付属の英語学校で 9ヶ月間の語学研修を経て、2003年1月にアラバマ
 大学に入学。専攻は航空宇宙工学。2007年5月に学部卒業、翌年の5月に同専攻で
 修士課程修了。研究内容は発光塗料を用いた非破壊検査(Luminescent
 Photoelastic Coating)の研究・開発。2008年10月より、国内機械メーカーにて
 航空機エンジンの整備/開発に従事。

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