2014年11月30日日曜日

英国オックスフォード大学留学 第5回

今回でオックスフォード大学留学、最終回となります。自主性の尊重、留学での苦労、所属グループについて語っていただきます。研究グループについて調べておくことはもちろんですが、留学中に様々な苦労があり、日本との違いにショックを受ける方もいると思いますが、記事を通して心の準備をしておくことは非常に有効ですので、ぜひこちらの記事を役立てていただきたいと思います。


3.3 自主性の尊重

また、学生の自主性を重んじるという点も特徴として挙げられます。言い換えると、必須とされている課題は最低限に抑えられ、学生が各自必要に応じて自主的に学ぶ環境だと言えます。具体的には、博士課程の学生に課せられている授業は2科目であり、これは量的に多くありません。さらに言えば、授業への出席や宿題の提出は義務ではなく、試験に合格しさえすればよいのです。1学期が2か月という短期間のため、授業内で学ぶ内容も限られています。宿題は結構な量が課せられますが、その採点結果が成績に影響するということはありません。あくまで自分が学ぶために問題を解きフィードバックを受けるのです。

ゆえに、強制的に勉強させられるという意味のプレッシャーはそれ程なく(もちろん試験に合格しなければなりませんが)、外部からの圧力がないと何もしない、というタイプの学生には適さない環境であるかもしれません。逆に必須科目が少ない分、自分の研究に必要な勉強に多くの時間を割り当てられるというメリットがあります。また、試験対策に時間を取られることなく、研究者としての力を伸ばす学習に集中できるという利点もあります。特に自分が専門とする理論計算機科学・数学といった科目においては、授業はあくまで補助的なものであり、最終的に自分の頭で考え理解することが本質です。

実は自分も入学前は授業を重視する米国型のプログラムに魅力を感じていましたが、現在は指導教授や周囲の研究者と頻繁に質問や議論ができる環境が最も肝要であり、それさえあれば自ら学んでいけることを実感しています。ゆえに必須科目が少なく柔軟に学ぶことのできるこの環境を気に入っています(もちろん学科内の授業を2科目以上履修したい場合、自由に聴講すればよいですし、宿題もしっかりと採点してもらうことができます)。一方で、自分の研究方向・興味が明確となっていない学生にとって、1年目は基礎知識を身に付け、研究トピックを見つけるためにかなりの自主的なハードワークが必要です。

少し話が脱線しますが、計算機科学科の試験の方式がテイクホームであるという点についても自分は肯定的な立場です。というのも数学の問題を解く際には、ある問題がなかなか解けなかったけれど、時間をおいて再度取り組んだら突然解法が閃いた、ということがよくあるからです。有名な数学者であるピーター・フランクルさんも、数学コンクールや試験中には解法が閃かなかったが、その後帰り道に突然解法を思いつき、悔しい想いをした、と著書の中で語っていらっしゃいます。従来の、固定された机に座り数時間以内に解答する形式の試験では、このようなことが起こりやすく、試験問題も時間のかかる証明問題などは不向きということになってしまいます(証明にこそ数学の本質があるというのに・・・)。つまり試験結果が受験者の能力を正しく反映しない、ということが起こりやすくなってしまう訳です。さらに言えば、研究者に求められる能力というのは、1つの場所に固定された状態で、数時間の間に答えを出すのではなく、もっと長い期間内で、様々な情報の閲覧も可能な中で問題をじっくりと考え、解答を推敲し完成度の高い形で発表するというものです。この観点から考えると、テイクホームの形式は、従来の試験の不必要な制約を取り払った、実際の研究能力により近いスキルを測るものであり、試験の形として理に適っていると言えます。

3.4 初年度の苦労

現在自分は初年度の課題を全て終え、2年目を迎えたところです。初年度を振り返ると、正直かなり苦労を重ねた1年でした。その理由は主に、(前述したように)博士課程に修士課程は含まれないということにあります(自分は日本と米国で学士課程を終えた後、直接博士課程に入学したため、修士課程を全く経験していません)。オックスフォードの博士課程では、初めの1年間で基礎的能力を身に着けるとともに、研究トピックを見つけて、研究計画書としてまとめなければなりません。研究トピックを探す作業は既存の論文を読むことを作業の基本とする訳ですが、論文を読むためには関連する基礎理論を既に理解していなければなりません。ゆえに、はじめに必要な理論を身に付ける必要があり(これにかなりの時間と労力を要します)、その後ようやく論文を理解し、それが果たして自分の興味と合致するものであるか否かを判断することができます。何週間もかけて論文を読み、これが自分の興味と合致しないことを知り、また振出しに戻るということが幾度となくありました。努力の甲斐あり、最終的に自分の興味に合致した研究トピックを見つけることができましたが、米国大学院のプログラムであればあれ程焦りを感じることなくじっくりと研究トピックを探すことができたとも思います。実感として、まだ研究トピックが ピンポイントに定まっていない、または新しい分野にチャレンジするため基礎をはじめからしっかりと身に着けたいという学生にとっては、米国大学院の博士課程の方が良い選択であるように思います。しかし基礎力があり、ある程度自立して学び研究していける学生にとってはオックスフォードのプログラムの方が合っているかもしれません。

3.5 Quantum Group

最後に筆者の所属する研究グループについて簡単に紹介します。基礎理論重視のオックスフォード大学計算機科学科の中でも、とりわけ理論的な研究に重点を置いている研究グループが筆者の所属するQuantum Groupです。圏論や論理学を軸として、計算の意味論などの理論計算機科学、圏論などの純粋数学、さらに量子物理学や言語学まで、非常に幅広い研究を扱っています。ゆえに、グループには学際的な雰囲気が強く漂います。圏論や論理学といった理論的枠組みが様々な分野に応用できる、言い換えると一見異なる学問分野に共通する視点を持つことができる、という点が非常に面白いです。もともと理論計算機科学は数学の1分野であり、特に自分が興味を持つ基礎的な研究は、本質的に計算機科学・数学・哲学などの分野が関連する学際的な性質を持ちます。ゆえに、関連する複数の学問分野の専門家や同じ研究興味を持つ学生と頻繁に議論できる環境は非常に恵まれていると感じています。

さらに、指導教授にも恵まれたと実感しています。世界的な計算機科学者であるだけでなく、数学・論理学などに関する幅広い知識を持ち、適切なアドバイスをして下さいます。特筆するべき点は、これまでのキャリアの中で全く異なる複数の研究トピックを開拓し成果を出してきたという点です。ゆえにグループの中には、新しい研究に取り組むという雰囲気があります。また自分の基礎的・哲学的な興味を理解し、これに合った研究内容を提案して下さいます。やはり自分の研究興味と指導教授の研究方向の一致というものが非常に大切であり、自分の興味に合った研究ができる環境に在籍することを嬉しく思います。

4.終わりに

以上、オックスフォードという大学や街、及び留学生活の様子から博士課程の内容まで駆け足で描写してきました。こちらの留学生活の様子が少しでも伝われば幸いです。特にこれから留学を考えている方の判断の一助となることを願っています。最後にこの記事を寄稿する貴重な機会を与えて下さったカガクシャネット、特に副代表石井洋平様にこの場を借りて心よりお礼申し上げます。



今回で最終回となりましたが、皆様いかがでしたでしょうか?オックスフォード留学中の山田倫大さんに日常生活から大学院についてまで幅広く語っていただきました。ありがとうございました。

また第一回の記事で不手際があり2度配信することになり、山田さんをはじめ、読者の皆様にもご迷惑をおかけしましたことをお詫びいたします。


過去の記事は以下のリンクからご覧ください。


image courtesy of Stockimages
━━━━━━━━━━━━━━━━━
カガクシャ・ネットワーク http://kagakusha.net/
発行責任者: 石井 洋平
編集責任者: 石井 洋平
━━━━━━━━━━━━━━━━━  




にほんブログ村 海外生活ブログ 研究留学へ にほんブログ村 海外生活ブログ 海外留学(アメリカ・カナダ)へ にほんブログ村 海外生活ブログ 海外留学(ヨーロッパ)へ