2014年6月22日日曜日

アカデミア永久職獲得まで(6) 話し方とオンライン面接を考える

アカデミアでの永久職獲得を目指す就職活動についてお伝えする連載の第6回です。

最終回の今回は、実際の面接(インタビュー)のポイントをケンブリッジ大学の今村さんにご紹介いただきます。英語での面接というだけで、母語話者でない日本人にとってはハードルが高くなりますが、相手に与える印象に気を配るこつは日本語での面接とも共通するところがあるそうです。

さらに、近年増えてきているSkypeを活用したオンライン面接を自然にこなす上で知っておくと良い点もまとめていただきました。細かいことを一つひとつ丁寧に積み重ねて、大切なオファーを勝ち取りたいですね。



15.話しをする上でのポイント


インタビューでの応答についてよく言われるのは、ネガティブな内容・表現は避けるということ。公募先が自分にとって最適であることを発言する際に、日本やこれまで関わった環境を暗にでも批判するようなことは言ってはならない。研究を行う上での不合理や問題などあげればどんな環境でもきりがないだろう。しかし、「問題があるから外に出たい」という思考を暗示することはNGである。常にポジティブ思考で、どんな環境にも感謝の念を抱き、探究心が溢れんばかりといった様が自然と発せられる様な自分を日頃から心掛けていたいものである。

面接時に私が具体的に心掛けたことの1つは、NotやNeverなどの言葉は絶対に使わないことであった。さらにHoweverやBut等いかにもネガティブな言葉が続きそうなニュアンスを一瞬でも連想させてしまいそうな単語は避ける。なるべく柔らかい表現を心掛ける。こうした点については英語を母国語とする人向けの、英語に関する書籍にもよく記載されている。

日本語での会話を考えても、返答の第一声が「いや・・」「でも・・」となれば、それに続く内容がなんであれ、あまり良い印象を与えない。言語の種類を問わず、話し方次第で良い印象・悪い印象をコントロールすることはできる。そういった事について、日本語でおさらいしておくと、英語の会話でも気をつけるべき部分がより明白となって良い。

英語が外国語である以上は、その癖や様々な深い表現法などを、ある時点で意欲的に追及していく必要がある。博士の学生について言えば、科学のコミュニケーション能力を養う機会を指導教授が設ける事が稀にあるかもしれないが、博士研究員に対してそうしたアドバイスをする事は私の知る限りほとんどない。博士研究員はそういったスキルを既に身につけていることが前提になっているからだ。博士研究員が期待されているのは何よりもまず即戦力や生産力であるものの、言語能力が就職面接において結果を出すのに必要不可欠なのは間違いない。

北米の大学院に所属すると、科学論文を批判的に吟味する経験を多く積むといわれる。当然、教授は研究の批判には長けている。しかし私がこれまで参加した学会などの公の場では、当の教授たちが批判的に議論することは滅多にない。おそらく、一流の研究者たちは批判的な議論を研究室のミーティングで行い、一方で学会では批判的なことを言わず建設的に要点を抑えながら話をリードする。面接時に要求される技量の一端だと思う。

日々のディスカッション、研究者とのインタビュー、学会での発表や質疑応答でもヒントが多く転がっている。場数を踏んで、どんな様子・英語表現がポジティブな印象、ネガティブな印象を与え得るか理解して、よい部分はどんどん吸収していきたい。

前回、インターネットで面接相手の動画などを検索するとよいことを述べた。英語で議論を重ねることについても同様と思う。学会やセミナーなどの動画を探せば、欧米の科学者がどのように発表をし、どのように質疑応答をこなすのかまで観覧することができる。よい例、悪い例が散在していると思うが、私としては日本人の感覚で印象がよければ概ね問題ないと考える。そして、内容を学ぶ視点を、イントネーションや口の動きといった会話の科学を読み解くような視点に切り替えて視聴してみるとよいのでは。


16.オンラインの面接


ケンブリッジ大学以外の研究機関とも、オンラインでの面接の機会を得ていた。最初に書類選考が通った公募の機会では(第1回参考)、スカイプを使っての面接を経験したのだが、その時はポジションのオファーもなかった。その後のオンラインの面接の機会では、幸いなことにオファーを得るに至った。同じオンライン面接で合否が分かれた理由は知りえないが、一方でオファーを得たことでオンライン面接に苦手意識を持つことがなかったのは幸いだと思う。

技術の進歩のおかげで、これからオンラインを通じて面接の機会も増えていくだろう。(就職関係だけでなく共同研究のミーティングやセミナーでも同様である。)オンラインを通じての面接は独特のものがあるためここに記載したい。

ハーバード公衆衛生大学院のキャリアサービスのオフィスにはオンライン面接の手引きがある。しかし、その内容はカメラのセットアップの重要性、身なりを整え、きれいな部屋を事前に予約して、試運転をしておく重要性などが記載されているのみ。こうしたことは、常識やマナーの範囲で当然といえる。その手引きは役立たずだった。以下は、その手引きには書いていなかったがきっと役に立つであろう事柄である。

オンラインの面接では履歴書やオンライン上のプレゼンテーションの資料を送ることになる。まずは大きくページ番号を記す。基本的なことだが、いつも以上に大きくする。意識していることが伝わるくらいでいいと思う。面接時にスライドのコピーや履歴書を提示する際には、もしかしたら自分から「○○ページをご覧ください」などとお願いする機会があるかもしれない。この際に、ページが無かったり、判り難かったりという事は是非とも避けたい。きちんとシミュレーションしていた通り流れが途絶えないよう、できるだけ気を利かせておきたい。なぜなら、オンライン面接では自分が見てほしいページを、相手が見ているか確認できないからだ。

二点目は、違和感を受容すること。通常、自分が話をする時に相手の目を見て話す事ができれば、内容が伝わっているかどうか簡単に判断できる。それだけでも安心できる。しかしオンラインの面接だとそれができない。面接官である教授がこちらのためにわざわざカメラ目線にしてくれることはないので、自分の話す内容が伝わっているのかどうかいまいちよく判らなくなる。そういった不安や日常の癖もあって、視線を合わせようとしたり、様子を窺おうとして、ついついディスプレイを見てしまいがちになる。しかし、視線が合うはずもなくただ焦りが募ってしまう。まずはそんな状況に対して心の準備をしておくとよいだろう。

三点目は、相手の目を見て話をする「振り」をすること。面接相手の教授にカメラ目線で話してくれと言う訳にはいかないが、自分の視線をカメラに向けることはできる。自分がカメラを見る事で面接官は自分と目が合った状況となり、同じ言葉でも説得力を持たせる事ができるのは間違いない。実際、私がカメラ目線を維持した際の反応はそうしなかった時と明らかに違った印象がある。また、カメラを面接相手に見立てることで、何よりも自分自身が集中できたように思う。

オンラインでの面接がなぜ違和感を抱かせるのか、私自身は複数回経験してやっと理解できた。先に記した様に、視線を合わせる事が難しいことで相手が自分の会話を理解しているかどうか確認しにくい事や、相手が頷いていたり、飽きていないのかどうかを確認しにくい状況が、こちら側の不安を掻き立ててくるからだ。 しかし、こういった事も全ては慣れだ。実践で場数を踏まなくても、心得ておけば数回のシミュレーションで対応できるようになると思う。


17.最後に


博士研究員の際に続けた就職活動について、有効な考えなのではないかと感じつつ就職活動中には振り返ることがなかった事柄について数回に渡り書かせて頂いた。キャリアを構築していくためには、面接する機会が必ず巡ってくる。そして面接官になったり、学生を指導したりする立場を担うこととなる機会も増えると思う。そんな時、頭の片隅でひょっこりこの体験談が顔をだして参考にして頂ければと思いキーを叩いた。

また何よりも近年の研究者の就職難が念頭にあった。研究者の中には、研究に没頭していながらも業績が思うように伸びず、気づいた頃には、就職活動に時間を掛ける余裕を失い、手探り状態のまま時間が過ぎ、大事な機会を逸して研究生活の危機を迎える人などいると思う。この寄稿が少しでもそういった状況を回避する役に立てばと願っている。

(おわり)

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編集後記

アカデミアでの永久職獲得を目指す就職活動についての全6回の連載、いかがでしたか?編集者の私自身も興味深々の内容で、ついついストーリーに引きこまれながらの編集となりました。読者の皆さんにとっても、楽しく、ためになる連載をお送りできたならこの上ない幸いです。執筆者の今村様には、9月頃に初稿をお送りいただいてから、時間をかけて校正にご協力いただきました。お忙しい中、連載の原稿をご寄稿いただき、さらに文章を鍛えあげてくださった今村様に、心より御礼申し上げます。


第1回 あなたがハッピーになるため
第2回 自分を繕わずにアピールして
第3回 勢い余って話し過ぎないこと
第4回 Keep Calm and Carry On
第5回 対面面接のヒント
第6回 話し方とオンライン面接を考える

 

 執筆者プロフィール


今村文昭 (Fumiaki Imamura)
Investigator Scientist
MRC Epidemiology Unit
Institute of Metabolic Science.
University of Cambridge School of Clinical Medicine

略歴
BS at 上智大学理工学部 化学科 理学士
MS at Columbia University College of Physicians and Surgeons,
  Institute of Human Nutrition
PhD at Tufts University, Friedman School of Nutrition Science and Policy,
  Nutritional Epidemiology Program
Post-doc training at Department of Epidemiology,
  Harvard School of Public Health

image courtesy of Stuart Miles / FreeDigitalPhotos.net
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発行責任者: 石井 洋平
編集責任者: 日置 壮一郎
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2014年6月8日日曜日

アカデミア永久職獲得まで(5) 対面面接のヒント

アカデミアでの永久職獲得を目指す就職活動についてお伝えする連載の第5回です。

就職活動では多くの場合、面接があります。面接は履歴書に書かれていない内容をアピールできる格好の機会ですが、限られた時間の中で効果的に自分のことについて伝えるには、どんな点に気を遣えば良いのでしょうか?面接の間だけでなく、日頃から準備できることもたくさんあるそうです。

今回は、対面面接のヒントをケンブリッジ大学にて栄養疫学を研究していらっしゃる今村文昭さんにご紹介いただきます。




面接のときに受けた質問などの内容とそれに関する考察を紹介したい。当然、研究の方法論などの特定のものもあったが、それでも一般化できるように抽出した。


12.簡潔に述べる


ケンブリッジ大学の面接の数週間前、5分間で研究内容を紹介するように指示があった。これまでの研究を短い時間に解り易くまとめるのは至難の業だったが、まずは要点を絞って原稿を作り、それから抑揚から視線、身振りなど、自分が思い描いた流れを叩き込むように常にシミュレーションをして過ごした。5分間で自己紹介をするというのは、興味を惹く内容「だけ」を効率よく伝える必要がある。思い起こせば、この点について、ケンブリッジ大学の前の面接の機会では私は失敗していた。

しかし、実際の面接では5分間で話をするということ自体が忘れ去られていた。教授たちは、履歴書などを眺め、それらに基づいて質問をしてくる形となった。これまでの経験、論文の内容や方法論の解説、どんな意義があるのか、苦労した点について問われた。想定していた殆どの事が実際に質問され、シミュレーションは予想以上に役に立った。

面接という限られた機会で、一つの研究についてのみ述べるのはもったいない。自分自身をアピールできる内容はできる限り網羅したい。しかし、面接官が自分の研究について興味をもって頷いている様子がうかがえれば、それに合わせてより深い考えを伝えようとしてしまう。面接官である教授もそこは科学者、本来の役割より科学的好奇心が勝ってしまうことがあるようだ。好奇心から更に踏み込んで質問をしてくるとなれば、なおさら話は弾んでしまうだろう。それに喜んで応じることも可能だが、特定のことばかり話すことは
冷静に考えればやはりNGである。

博士の学生でも博士研究員でも、自分の研究の醍醐味や知識、業績などをここぞとばかりに伝えたくなる事と思う。だから、どこまで述べる必要があるのか、不必要な部分がどこかを判断しておかなくてはならない。マニアックに過ぎる事を情熱的に発言したりしないように自制する事も心がけておかなくてはならないだろう。私の場合、複数の面接で重要な内容を超えて話しすぎた質疑が確かにあった。そうした経験を経て、ケンブリッジ大学での機会では要領よく答える事ができたと思う。

面接室に向かう際に、一瞬「エレベーターピッチ」(エレベーター内で会った上司に自分のことをアピールする)という言葉を思い出した。いつだったかエレベーターピッチができるように薦められた事があったが、私は実際の経験でその重要性を知った。履歴書を更新するときなど、自分の業績や経験を見直すことになる。そんな時、自分自身をどう他人に簡潔に伝えるか考え口に出してみるのがよいと思う。


13.なぜ日本ではなく英国なのか。教授職に就くならどこがよいか。


インタビューでこんな質問も受けた。私は、
 「日本は長寿国で食文化が成熟し、優れた栄養学者・疫学者も多くいる。
  そこでさらに欧米で培われている科学を日本の栄養学に還元できれば
  さらなる発展も見込める。その橋渡しができるようになれたらよい。」
というような内容を答えた。さらに英国にこだわる理由としては、
 「英国特有の栄養政策や疫学の研究体制は世界にも知れ渡っているほどなので、
  その根幹に関れたらよい。」
と伝えた。私の専門領域である栄養学や疫学ではある程度、土地柄があるためこうした答えが妥当なところだろう。特に明確な考えを用意していたわけではないが、無難な答えを述べることができたと思う。実際に“Good answer!”という言葉を教授の一人から戴いた。もっとも、前回の投稿を読んで頂いている方々には私が英国を選んだきっかけが他にあった事はバレてしまっているけれども。

有体に言ってしまえば、イギリスの栄養政策のことなどは自分の研究には全く関係がなかったのだが、世界でも主要な栄養政策くらい知っておきたいと関心を寄せていた経験が実った形だった。また私の専門領域では、メディア受けする研究が流行り、学生・研究者の数が膨れ上がり捏造の問題が生じたりしている。そんな状況の中で同時にどのように研究領域で生き残っていくのか面と向かって考えていかなくてはならない。そして大きな声では言わないものの、教授陣は研究領域の社会問題にそれぞれ一家言あるようだった。そういった問題意識が同調した瞬間が確かにあった。


14.答えの無い質問に対する対策


ケンブリッジ大学に限らず複数の面接にて予想していなかった質問が必ずあった。直接的ではなく間接的にでも、科学者としての考え方や姿勢を問うものだ。あまり耳にしてこなかったが、結果的によい対策となっていたことをここに挙げておく。一つは特定の専門誌のEditorによる問題提起、NatureやScienceなどのキャリアや研究に関する記事などに目を通しておくこと。特定の研究領域の展望や一般的な社会問題が具体例を通じて理解でき、考えも整理しやすい。日本人であれば、捏造の問題や原発の問題などは、専門領域を問わず、科学者としての考え方を見直すのによいと思う。欧米の科学雑誌に掲載されるような内容は把握しておきたい。

また面接官である教授の書いた論文などを読むことも有効な対策。研究論文はもちろんだが、教授の関係した研究論文への反駁的な論文にも目を通すと良い。特にインパクトの高い論文には、Letterとして研究者が問題点を指摘したり、応用範囲を示すような論文がほぼ必ずある。さらに近年では論文のウェブサイト上にコメントを残す機能があり、他の研究者の意見を読むことができる。こうした媒体の情報は些細な事柄であることも多いが、中には面接相手の教授をうならせるであろう内容も含まれている。雑誌のCommentaryやEditorial、所属先の大学や研究施設からの広報など、その人の考え方、展望がわかるものもまた有効。学会や国際機関が組織する委員会への寄与なども良いと思う。

意外に役に立ったのが、教授たちのインターネットの動画やラジオの記録だった。捜せばでてくるものだ。インターネットで検索してみるとよいだろう。どんな考えを持っているのかはもちろん、その人がどんな声なのか、どんな調子で話をするのか、そういった事に触れることができる。たとえば医師として社会医学に携わってきた教授などを前にすると、その教授の基礎科学についての考えを理解した上で話をするのとしないのとでは大きな違いがある。どんな分野の研究者でも、研究領域の社会問題だけではなく、基礎と応用、研究と社会との距離や関係、キャリアについての考えを持っている。その考えに前もって触れる機会、特に生の声を聴いて知る機会はとても貴重だ。

研究に勤しんでいると、研究と直接関係しない情報を得るのはなかなか難しい。それらに普段から触れておくことも重要なのだと思う。近年の研究領域と社会との関係を思うと、そういった研究とは関係ない情報に敏感になることも、近年の博士課程、博士研究員として歩む道のりにおいて教育・トレーニングの一環として要求されていることのように感じている。

次回には話しをする上でのポイント、オンライン面接について触れたい。

(第6回へ続く...)

第1回 あなたがハッピーになるため
第2回 自分を繕わずにアピールして
第3回 勢い余って話し過ぎないこと
第4回 Keep Calm and Carry On
第5回 対面面接のヒント
第6回 話し方とオンライン面接を考える

 

執筆者プロフィール


今村文昭 (Fumiaki Imamura)
Investigator Scientist
MRC Epidemiology Unit
Institute of Metabolic Science.
University of Cambridge School of Clinical Medicine

略歴
BS at 上智大学理工学部 化学科 理学士
MS at Columbia University College of Physicians and Surgeons,
  Institute of Human Nutrition
PhD at Tufts University, Friedman School of Nutrition Science and Policy,
  Nutritional Epidemiology Program
Post-doc training at Department of Epidemiology,
  Harvard School of Public Health

image courtesy of Stuart Miles / FreeDigitalPhotos.net
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カガクシャ・ネットワーク http://kagakusha.net/
発行責任者: 石井 洋平
編集責任者: 日置 壮一郎
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